今回は、相続時精算課税を選択した人が、贈与した人より先に亡くなった場合を確認してみましょう。
権利や義務が引き継がれる。
先に規定を確認してみましょう。
(相続時精算課税に係る相続税の納付義務の承継等)
相続税法第21条の17第1項、令和7年6月1日施行
第二十一条の十七 特定贈与者の死亡以前に当該特定贈与者に係る相続時精算課税適用者が死亡した場合には、当該相続時精算課税適用者の相続人(包括受遺者を含む。以下この条及び次条において同じ。)は、当該相続時精算課税適用者が有していたこの節の規定の適用を受けていたことに伴う納税に係る権利又は義務を承継する。以下省略
特定贈与者(例、親)が亡くなる前に、特定贈与者の相続時精算課税を選択した人(例、子)が先に亡くなった場合が要件です。
この場合、相続時精算課税を選択した人の相続人(例、孫)は、相続時精算課税を選択した人の納税に関する権利や義務を引き継ぎます。
例えば、次の場合
・特定贈与者 父A
・相続時精算課税を選択した人 父の子B
・父の子Bの子(父Aの孫) C
父の子Bが父Aより先に亡くなった場合は、父の子Bの相続人となるCが、父の子Bの納税に関する権利や義務を引き継ぎます。
権利や義務が引き継がない場合
上記の規定で省略した部分には、例外が規定されています。権利や義務を引き継がない場合です。規定を確認してみましょう。
ただし、当該相続人のうちに当該特定贈与者がある場合には、当該特定贈与者は、当該納税に係る権利又は義務については、これを承継しない。
相続人の中に特定贈与者がいる場合は、特定贈与者については権利や義務を引き継ぎません。
例えば、次の場合
・特定贈与者 父A
・父Aの配偶者 B
・相続時精算課税を選択した人 AとBの子C
Cが父Aより先に亡くなった場合は、
・父A
・父Aの配偶者B
の2人(両親)が相続人となります。
配偶者Bは、特定贈与者でないため、Cの権利や義務を引き継ぎます。
父Aは、特定贈与者に該当するため、Cの権利や義務を引き継ぎません。
権利や義務を承継した人が亡くなった場合
権利や義務を承継した人が亡くなった場合は、承継した人の相続人が権利や義務を引き継ぎます。
参考規定
4 前三項の規定は、第一項の権利又は義務を承継した者が死亡した場合について、準用する。
相続税法第21条の17第4項、令和7年6月1日施行
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おまけ
第2項では、限定承認の取扱いが規定されています。限定承認を選択した場合は、相続により取得した財産を限度に権利や義務を引き継ぎます。
相続により取得した財産を超える債務(例、借金など)を負わないようにするためです。
第3項には、国税通則法との関係が規定されています。
参考規定、相続税法
3 国税通則法第五条第二項及び第三項(相続による国税の納付義務の承継)の規定は、この条の規定により相続時精算課税適用者の相続人が有することとなる第一項の納税に係る権利又は義務について、準用する。
相続税法第21条の17第3項、令和7年6月1日施行
国税通則法第5条第2項を確認してみましょう。
2 前項前段の場合において、相続人が二人以上あるときは、各相続人が同項前段の規定により承継する国税の額は、同項の国税の額を民法第九百条から第九百二条まで(法定相続分・代襲相続人の相続分・遺言による相続分の指定)の規定によるその相続分により按あん分して計算した額とする。
国税通則法第5条第2項、令和7年6月6日施行
前項(第5条第1項)後段には、「相続があった場合は、相続人はその亡くなった方の所得税や相続税などの国税を納める義務を引き継ぐ」ことが規定されています。
上記の第2項には、「相続人が2人以上いるときは、法定相続分などの割合で各相続人が引き継ぐこと」が規定されています。
相続時精算課税を選択した人が亡くなった場合についても、国税通則法の取扱いを準用することになります。
国税通則法第5条第3項を確認してみましょう。
3 前項の場合において、相続人のうちに相続によつて得た財産の価額が同項の規定により計算した国税の額を超える者があるときは、その相続人は、その超える価額を限度として、他の相続人が前二項の規定により承継する国税を納付する責めに任ずる。
国税通則法第5条第3項、令和7年6月6日施行
相続により取得した財産<引き継いだ国税となる人がいる場合は、他の相続人が取得した財産を超える部分に限り、引き継いだ国税を納付する責任が生じます。
例えば、次の場合
・相続により取得した財産 1,000
・引き継いだ国税 1,500
の場合、超える部分は、1,500-1,000=500です。
500については、他の相続人が納付する責任を負います。
相続時精算課税を選択した人が亡くなった場合についても、国税通則法の取扱いを準用することになります。
特定贈与者については、納税に関する権利や義務が承継できません。実際の法定相続分などと相違することがあるため、相続税法に準用規定があるのでしょう。