小規模宅地等の特例と遺産分割


今回は、小規模宅地等の特例が適用できない場合を確認してみましょう。

小規模宅地等の特例

亡くなった方の財産の中に土地がある場合、相続税が減る特例があります。
「小規模宅地等の特例」といいます。

対象となる土地は、次の2つです。
1、事業用の土地
2、居住用の土地

事業用や居住用の土地であっても、相続税がかかります。相続税を支払うことが難しい場合は、資産を売却して相続税を支払うお金を用意する必要が生じます。

そうなると、事業や居住の継続が難しくなりますので、事業用の土地や居住用の土地については、特別に相続税の評価を下げる特例が設けられています。

小規模宅地等は、細かく分けると次の4つあります。
1、事業用(貸付けしないもの)
2、居住用
3、会社の事業用
4、事業用(貸付けするもの)

1から3までは、土地の評価が20%(80%下がる)
4は、土地の評価が50%(50%下がる)となります。

適用できない場合

小規模宅地等の特例は、細かい要件がたくさんあります。

1、小規模宅地等の特例の要件を満たせば、小規模宅地等の内容に応じて、土地の評価が20%(80%減額)か50%(50%減額)になります。

2、小規模宅地等の特例には、特例が受けられる面積に制限があります。

3、小規模宅地等の定義(種類)が規定されています。
・特定事業用宅地等(4以外の事業用の土地)
・特定居住用宅地等(住まいの土地)
・特定同族会社事業用宅地等(特定の法人の事業用の土地)
・貸付事業用宅地等(貸付事業用の土地)

第4項は、小規模宅地等の特例が利用できない場合が規定されています。

確認してみましょう。

4 第一項の規定は、同項の相続又は遺贈に係る相続税法第二十七条の規定による申告書の提出期限(以下この項において「申告期限」という。)までに共同相続人又は包括受遺者によつて分割されていない特例対象宅地等については、適用しない。以下省略

租税特別措置法第69条の4第4項、令和7年8月4日施行

第1項の規定は、小規模宅地等の特例のことです。

相続税の申告期限までに、
・共同相続人
・包括受遺者(民法上、相続人と同じ権利や義務がある人)
によって分割されていない特例対象宅地等(小規模宅地等の特例の対象となる土地など)については、小規模宅地等の特例が利用できない、と規定されています。

小規模宅地等の特例を利用する場合は、原則として
・相続税の申告期限まで
に遺産分割を済ませる必要があります。

ただし、例外があります。

3年以内に分割する予定がある場合

相続税の申告期限から3年以内に遺産分割が終わる場合は、小規模宅地等の特例が利用できます。

参考情報、カッコ書きを省略します。

ただし、その分割されていない特例対象宅地等が申告期限から3年以内(注1)に分割された場合(注2)には、その分割された当該特例対象宅地等については、この限りでない。

参考規定

省略
ただし、その分割されていない特例対象宅地等が申告期限から三年以内(当該期間が経過するまでの間に当該特例対象宅地等が分割されなかつたことにつき、当該相続又は遺贈に関し訴えの提起がされたことその他の政令で定めるやむを得ない事情がある場合において、政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、当該特例対象宅地等の分割ができることとなつた日として政令で定める日の翌日から四月以内)に分割された場合(当該相続又は遺贈により財産を取得した者が次条第一項の規定の適用を受けている場合を除く。)には、その分割された当該特例対象宅地等については、この限りでない。

租税特別措置法第69条の4第4項、令和7年8月4日施行
申告期限を過ぎる場合は、手続きが必要

原則として、相続税の申告期限までに対象となる土地の遺産分割を済ませる必要があります。

ただし、相続税の申告期限までに土地の遺産分割が終わらない場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出が必要となります。

参考リンク、国税庁、B1-5 相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/2327.htm

3年を過ぎる場合は、申請が必要

申告期限後3年以内の分割見込書を提出した場合に、3年以内に分割が終わらなかったときは、どうなるでしょうか?

3年以内に分割が終わらないことについて、一定の事情がある場合は、3年を超えても小規模宅地等の特例が利用できます。

この場合も、一定期間内に手続きが必要となりますので注意しましょう。

手続き期間
・申告期限後3年を経過する日の翌日から
・2月を経過する日まで

参考リンク、国税庁、B1-6 遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請手続
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/1585-01.htm

まとめ

1、小規模宅地等の特例は、申告期限までに遺産分割が必要。
2、遺産分割が終わらない場合は、分割見込書の提出が必要。3年延長されます。
3、3年以内に遺産分割が終わらない場合は、申請書の提出が必要。

参考情報

おまけ

注1のカッコ書きを確認してみましょう。3年を超える場合にはどうなるかが規定されています。

当該期間が経過するまでの間に当該特例対象宅地等が分割されなかつたことにつき、当該相続又は遺贈に関し訴えの提起がされたことその他の政令で定めるやむを得ない事情がある場合において、政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、当該特例対象宅地等の分割ができることとなつた日として政令で定める日の翌日から四月以内

当該期間は、相続税の申告期限から3年以内です。

相続税の申告期限から3年以内に
1、一定の事情があり
2、税務署の承認を受けたとき
は、「分割できる日の翌日から4月以内」に延長されます。
(詳細は、相続税法施行令に規定されています。)

注2のカッコ書きを確認してみましょう。

当該相続又は遺贈により財産を取得した者が次条第一項の規定の適用を受けている場合を除く。

相続や遺贈により財産を取得した人が、次条第1項(特定計画山林についての相続税の課税価格の計算の特例)を適用を受けている場合は、小規模宅地等の特例が適用できません。

手続き規定

7 第一項の規定は、同項の規定の適用を受けようとする者の当該相続又は遺贈に係る相続税法第二十七条又は第二十九条の規定による申告書(これらの申告書に係る期限後申告書及びこれらの申告書に係る修正申告書を含む。次項において「相続税の申告書」という。)に第一項の規定の適用を受けようとする旨を記載し、同項の規定による計算に関する明細書その他の財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。

租税特別措置法第69条の4第7項、令和7年8月4日施行

財務省令で定める書類に、「申告期限後3年以内の分割見込書」があります。

六 法第六十九条の四第四項に規定する申告期限(次号において「申告期限」という。)までに同条第一項に規定する特例対象宅地等(次号において「特例対象宅地等」という。)の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によつて分割されていない当該特例対象宅地等について当該申告期限後に当該特例対象宅地等の全部又は一部が分割されることにより同項の規定の適用を受けようとする場合 その旨並びに分割されていない事情及び分割の見込みの詳細を明らかにした書類

租税特別措置法施行規則第23条の2第8項第6号、令和7年8月16日施行

「当該申告期限後」に当該特例対象宅地等の全部又は一部が分割されることにより同項の規定の適用を受けようとする場合

・その旨
・分割されていない事情
・分割の見込みの詳細
を明らかにした書類(申告期限後3年以内の分割見込書)

3年を超える場合の申請

23 相続税法施行令(昭和二十五年政令第七十一号)第四条の二第一項の規定は、法第六十九条の四第四項ただし書に規定する政令で定めるやむを得ない事情がある場合及び同項ただし書に規定する分割ができることとなつた日として政令で定める日について準用し、相続税法施行令第四条の二第二項から第四項までの規定は、法第六十九条の四第四項ただし書に規定する政令で定めるところによる納税地の所轄税務署長の承認について準用する。この場合において、相続税法施行令第四条の二第一項第一号中「法第十九条の二第二項」とあるのは、「租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)第六十九条の四第四項(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)」と読み替えるものとする。

租税特別措置法施行令第40条の2第23項、令和7年8月1日施行

3年を超える場合の申請規定は、配偶者の相続税が減る特例にもあります。

相続税法施行令第4条の2第1項の規定が、配偶者の相続税が減る特例の申請規定のことです。

申請内容はほとんど変わらないため、準用規定となっています。

「法第69条の4第4項ただし書に規定する政令で定めるやむを得ない事情がある場合及び同項ただし書に規定する分割ができることとなつた日として政令で定める日」について準用します。

相続税法施行令第4条の2第2項から第4項までの規定も、配偶者の相続税が減る特例の申請規定のことです。

「法第69条の4第4項ただし書に規定する政令で定めるところによる納税地の所轄税務署長の承認」について準用します。

そのままだと特例が適用できないため、読替えが必要です。

読み替え後の規定

(配偶者に対する相続税額の軽減の場合の財産分割の特例)
第四条の二 租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)第六十九条の四第四項(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)に規定する政令で定めるやむを得ない事情がある場合は、次の各号に掲げる場合とし、同項に規定する政令で定める日は、これらの場合の区分に応じ当該各号に定める日とする。
一 当該相続又は遺贈に係る租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)第六十九条の四第四項(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)に規定する申告期限(以下次項までにおいて「申告期限」という。)の翌日から三年を経過する日において、当該相続又は遺贈に関する訴えの提起がされている場合(当該相続又は遺贈に関する和解又は調停の申立てがされている場合において、これらの申立ての時に訴えの提起がされたものとみなされるときを含む。) 判決の確定又は訴えの取下げの日その他当該訴訟の完結の日
以下省略
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