退職所得控除額の計算の特例


今回は、退職所得控除額の特例について確認します。

退職所得控除額の勤続期間(勤続年数)は、
施行令69条1項1号のイロハで計算します。

イ、一時勤務しなかった期間前の期間を加算します。
ロ、他社で勤務した期間を含めるときはその期間を加算します。
ハ、以前に退職金をもらった場合の勤続期間は加算しません。
ハただし書き、以前の勤続期間を含めて計算する場合は含めることができます。

退職所得控除額の特例は、退職所得控除額の重複部分を除く規定です。

重複部分が生じる理由

例えば、A社から退職金をもらって、B社からも退職金をもらった場合。

A社 入社—————退職(20年勤務、退職金あり)
           ↓
B社         入社——————–退職(7年勤務、退職金あり)

A社の勤続年数を20年、B社の勤続年数を7年で計算する場合は、重複期間はありません。今回の特例は、B社の勤続年数を27年(B社の7年+A社の20年)とした場合に、重複期間が生じるためB社の退職所得控除額の調整を行うものです。

A社 入社—————退職(20年勤務、退職金あり)
           ↓
B社   —————入社——————–退職(7年勤務、退職金あり)

B社を27年で計算すると重複期間が20年生じます。そのため、B社の退職所得控除額を27年で計算して、A社の重複部分の20年で計算したものをマイナスする調整をします。単純に27年-20年=7年×40万円で計算できません。勤続年数によって1年あたりの退職所得控除額が異なるからです。

計算例
1、27年の退職所得控除額
 800万円+(27年-20年=7年)×70万円=1290万円
2、20年の退職所得控除額
 800万円
3、1-2=490万円がB社の退職所得控除額となります。

太文字部分が重複部分の内容です。

 前項に規定する退職所得控除額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
 政令で定める勤続年数(以下この項及び第七項において「勤続年数」という。)が二十年以下である場合 四十万円に当該勤続年数を乗じて計算した金額
 勤続年数が二十年を超える場合 八百万円と七十万円に当該勤続年数から二十年を控除した年数を乗じて計算した金額との合計額

 次の各号に掲げる場合に該当するときは、第二項に規定する退職所得控除額は、第三項の規定にかかわらず、当該各号に定める金額とする。
 その年の前年以前に他の退職手当等の支払を受けている場合で政令で定める場合 第三項の規定により計算した金額から、当該他の退職手当等につき政令で定めるところにより同項の規定に準じて計算した金額を控除した金額

所得税法30条

重複部分のパターンは次の3つです。

退職所得控除額を2回使用する場合(1項1号)

2パターンあります。
A、他社で勤務した期間を加算している。他者から前に退職金をもらっている。
B、以前の勤務した期間を加算している。同じ人から前に退職金をもらっている。

同じ勤続期間を2回使用することになるため、今回計算する退職所得控除額から前回使用した退職所得控除額をマイナスする規定です。

前年以前4年内に退職金をもらっている場合(1項2号)

次の2つに該当する場合、退職所得控除額をマイナス修正します。

1、前年以前4年内に退職金をもらっていること
 みなし退職金の場合は前年以前19年内。
2、本年もらった退職金の勤続期間の一部と前年以前4年内の勤続期間が重複していること

過去4年(みなし退職金は19年)に退職金をもらって、退職所得控除額を1度使用している場合は、2回目の退職金について退職所得控除額に制限がかかります。

前年以前4年内の特例(2項、みなし勤続年数)

前年以前4年内の退職金収入があり、
前の退職金収入<前の退職所得控除額となる場合です。

2回目の退職所得控除額を計算する際、1回目の退職所得控除額に余り(退職金収入<退職所得控除額となる場合)がある場合は、1回目の勤続期間を1回目の退職所得控除額に応じた勤続期間に修正します。

例えば、次の場合
・前の退職金が300万円
・前の実際の勤続期間が12年、
・実際の重複期間が10年

1回目の退職所得の計算
退職金収入300万円<40万円×12年(実際)=480万円
退職金収入300万円-退職所得控除額300万円=退職所得0円

1回目の計算の退職所得控除額は300万円です。
2回目の計算で40万円×10万円(実際の重複)=400万円を
2回目の退職所得控除額からマイナスしてしまうと
退職所得控除額が過少となります。
400万円はマイナスしすぎという意味です。

1回目の退職金以上に2回目の退職所得控除額をマイナスする必要はありません。そこで、退職金収入300万円÷40万円(1年あたり)=7.5年→7年(切り捨て)を前の勤続期間とみなします

その結果、重複期間が6年になる場合、
退職所得控除額をマイナスする金額は、40万円×6年=240万円となります。

重複期間が7年になる場合、
退職所得控除額をマイナスする金額は、40万円×7年=280万円となります。

1回目の計算を7年ですると
退職金収入300万円>退職所得控除額280万円(7年で計算)となり、
控除不足になりません。

通常、勤続年数の端数は切り上げですが、
退職所得控除額を修正する場合は、端数を「切り捨て」します。
端数を切り上げると、7.5年→8年
40万円×8年=320万円となり、退職金収入300万円を超過するからです。

参考規定など

(退職所得控除額に係る勤続年数の計算)
第六十九条 法第三十条第三項第一号(退職所得)に規定する政令で定める勤続年数は、次に定めるところにより計算した勤続年数とする。
一 法第三十条第一項に規定する退職手当等(法第三十一条(退職手当等とみなす一時金)の規定により退職手当等とみなされるもの(次号及び第三号並びに次条第三項において「退職一時金等」という。)を除く。以下この条並びに次条第一項及び第二項において「退職手当等」という。)については、退職手当等の支払を受ける居住者(以下この号において「退職所得者」という。)が退職手当等の支払者の下においてその退職手当等の支払の基因となつた退職の日まで引き続き勤務した期間(以下この項において「勤続期間」という。)により勤続年数を計算する。ただし、イからハまでに規定する場合に該当するときは、それぞれイからハまでに定めるところによる。

イ 退職所得者が退職手当等の支払者の下において就職の日から退職の日までに一時勤務しなかつた期間がある場合には、その一時勤務しなかつた期間前にその支払者の下において引き続き勤務した期間を勤続期間に加算した期間により勤続年数を計算する。

ロ 退職所得者が退職手当等の支払者の下において勤務しなかつた期間に他の者の下において勤務したことがある場合において、その支払者がその退職手当等の支払金額の計算の基礎とする期間のうちに当該他の者の下において勤務した期間を含めて計算するときは、当該他の者の下において勤務した期間を勤続期間に加算した期間により勤続年数を計算する。

ハ 退職所得者が退職手当等の支払者から前に退職手当等の支払を受けたことがある場合には、前に支払を受けた退職手当等の支払金額の計算の基礎とされた期間の末日以前の期間は、勤続期間又はイ若しくはロの規定により加算すべき期間に含まれないものとして、勤続期間の計算又はイ若しくはロの計算を行う。ただし、その支払者がその退職手当等の支払金額の計算の基礎とする期間のうちに、当該前に支払を受けた退職手当等の支払金額の計算の基礎とされた期間を含めて計算する場合には、当該期間は、これらの期間に含まれるものとしてこれらの計算を行うものとする。

(退職所得控除額の計算の特例)
第七十条 法第三十条第六項第一号(退職所得)に規定する政令で定める場合は、次の各号に掲げる場合とし、同項第一号に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、当該各号に定める金額とする。

一 第六十九条第一項第一号ロ(退職所得控除額に係る勤続年数の計算)に規定する場合に該当し、かつ、同号ロに規定する他の者から前に退職手当等(法第三十条第一項に規定する退職手当等をいう。以下第七十一条の二(一般退職手当等、短期退職手当等又は特定役員退職手当等のうち二以上の退職手当等がある場合の退職所得の金額の計算)までにおいて同じ。)の支払を受けている場合又は同号ハただし書に規定する場合に該当する場合 当該他の者から前に支払を受けた退職手当等又は同号ハただし書に規定する前に支払を受けた退職手当等につき第六十九条第一項各号の規定により計算した期間を法第三十条第三項の勤続年数とみなして同項の規定を適用して計算した金額

二 その年の前年以前四年内(その年に第七十二条第三項第七号(退職手当等とみなす一時金)に掲げる一時金の支払を受ける場合には、十九年内。以下この号において同じ。)に退職手当等(前号に規定する前に支払を受けた退職手当等を除く。)の支払を受け、かつ、その年に退職手当等の支払を受けた場合において、その年に支払を受けた退職手当等につき第六十九条第一項各号の規定により計算した期間の基礎となつた勤続期間等(同項第三号に規定する勤続期間等をいう。以下この条において同じ。)の一部がその年の前年以前四年内に支払を受けた退職手当等(次項において「前の退職手当等」という。)に係る勤続期間等(次項において「前の勤続期間等」という。)と重複している場合 その重複している部分の期間を法第三十条第三項の勤続年数とみなして同項の規定を適用して計算した金額

2 前項第二号の場合において、前の退職手当等の収入金額が前の退職手当等について同号の規定を適用しないで計算した法第三十条第三項の規定による退職所得控除額に満たないときは、前の退職手当等の支払金額の計算の基礎となつた勤続期間等のうち、前の退職手当等に係る就職の日又は第六十九条第一項第二号に規定する組合員等であつた期間の初日から次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める数(一に満たない端数を生じたときは、これを切り捨てた数)に相当する年数を経過した日の前日までの期間前の勤続期間等とみなして、前項第二号に定める金額を計算する。
一 前の退職手当等の収入金額が八百万円以下である場合 当該収入金額を四十万円で除して計算した数
二 前の退職手当等の収入金額が八百万円を超える場合 当該収入金額から八百万円を控除した金額を七十万円で除して計算した数に二十を加算した数

3 第一項第一号の期間及び同項第二号の重複している部分の期間に一年未満の端数があるときは、その端数を切り捨てる。

所得税法施行令

参考資料
令和3年版、問答式、源泉所得税の実務、P462-P463
令和3年版、図解、源泉所得税、P171-P174

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