今回は、自己の株式を取得した場合の資本金等の額を計算してみましょう。
規定の概要
今回確認する規定は、こちらです。
二十一 自己の株式の取得(適格合併又は適格分割型分割による被合併法人又は分割法人からの引継ぎを含むものとし、前号に規定する自己株式の取得等(合併による合併法人からの取得、分割型分割に係る分割法人の株主等としての取得、適格分割に該当しない無対価分割による取得で第二十三条第四項第五号(所有株式に対応する資本金等の額の計算方法等)に掲げる事由による取得に該当しないもの及び法第二条第十二号の五の二に規定する現物分配による現物分配法人からの取得を除く。)及び法第六十一条の二第十四項第一号から第三号までに掲げる株式のこれらの号に定める事由による取得で同項に規定する場合に該当するものを除く。以下この号において同じ。)の対価の額に相当する金額(その取得をした自己の株式が次に掲げるものである場合には、それぞれ次に定める金額に相当する金額)
法人税法施行令第8条第1項第21号、令和7年4月1日施行
イ その取得をした自己の株式を有価証券とみなした場合に当該自己の株式が第百十九条第一項第五号から第九号まで、第二十六号又は第二十七号に掲げる有価証券に該当するときにおける当該自己の株式(ロに掲げるものを除く。) これらの号に定める金額(同項第五号から第九号までに掲げる有価証券に該当する場合にあつては、これらの号に規定する費用の額を除く。)
ロ 適格合併、適格分割、適格現物出資又は適格現物分配により移転を受けた自己の株式 第百二十三条の三第三項(適格合併及び適格分割型分割における合併法人等の資産及び負債の引継価額等)に規定する帳簿価額、第百二十三条の四(適格分社型分割における分割承継法人の資産及び負債の取得価額)に規定する帳簿価額、第百二十三条の五(適格現物出資における被現物出資法人の資産及び負債の取得価額)に規定する帳簿価額に相当する金額(同条に規定する費用の額が含まれている場合には、当該費用の額を控除した金額)又は第百二十三条の六第一項(適格現物分配における被現物分配法人の資産の取得価額)に規定する帳簿価額
長い規定のためカッコ書きを外してみましょう。
二十一 自己の株式の取得(注1)の対価の額に相当する金額(注2)
イ その取得をした自己の株式を有価証券とみなした場合に当該自己の株式が第百十九条第一項第五号から第九号まで、第二十六号又は第二十七号に掲げる有価証券に該当するときにおける当該自己の株式(注3) これらの号に定める金額(注4)
ロ 適格合併、適格分割、適格現物出資又は適格現物分配により移転を受けた自己の株式 第百二十三条の三第三項(注5)に規定する帳簿価額、第百二十三条の四(注6)に規定する帳簿価額、第百二十三条の五(注7)に規定する帳簿価額に相当する金額(注8)又は第百二十三条の六第一項(注9)に規定する帳簿価額自己の株式の取得対価の額が、資本金等の額の減算額となります。第20号も自己の株式を取得した場合の取扱いが規定されています。
そのため、第20号を適用するか第21号(今回の規定)を適用するかの振分けが取得(注1)のカッコ書きで規定されています。
取得の範囲
取得(注1)のカッコ書きを確認してみましょう。
取得(適格合併又は適格分割型分割による被合併法人又は分割法人からの引継ぎを含むものとし、前号に規定する自己株式の取得等(合併による合併法人からの取得、分割型分割に係る分割法人の株主等としての取得、適格分割に該当しない無対価分割による取得で第二十三条第四項第五号(所有株式に対応する資本金等の額の計算方法等)に掲げる事由による取得に該当しないもの及び法第二条第十二号の五の二に規定する現物分配による現物分配法人からの取得を除く。)及び法第六十一条の二第十四項第一号から第三号までに掲げる株式のこれらの号に定める事由による取得で同項に規定する場合に該当するものを除く。以下この号において同じ。)A、適格合併
B、適格分割型分割
による
A、被合併法人
B、分割法人
からの引継ぎは、取得に含まれます。
C、前号(第20号)に規定する自己株式の取得等(カッコ書き省略)
D、法人税法第61条の2第14項第1号から第3号までの株式のこれらの号に定める事由による取得で、同項(法人税法第61条の2第14項)に規定する場合に該当するもの
上記2つは、取得から除外されます。
Cの規定により、第20号と第21号が重複する場合は、第20号の規定(みなし配当事由が生じる資本の払戻し等)が優先されますので注意しましょう。
法人税法第61条の2第14項第1号から第3号までは、
第1号、取得請求権付株式
第2号、取得条項付株式
第3号、全部取得条項付種類株式
の3つです。
自己株式の取得等の範囲
自己株式の取得等のカッコ書きを確認してみましょう。
前号に規定する自己株式の取得等(合併による合併法人からの取得、分割型分割に係る分割法人の株主等としての取得、適格分割に該当しない無対価分割による取得で第二十三条第四項第五号(所有株式に対応する資本金等の額の計算方法等)に掲げる事由による取得に該当しないもの及び法第二条第十二号の五の二に規定する現物分配による現物分配法人からの取得を除く。)(省略)を除く。1、合併による合併法人からの取得
2、分割型分割に係る分割法人の株主等としての取得
3、適格分割に該当しない無対価分割による取得で、第23条第4項第5号(所有株式に対応する資本金等の額の計算方法等)に掲げる事由による取得に該当しないもの
4、法第2条第12号の5の2に規定する現物分配による現物分配法人からの取得
上記4つは、自己株式の取得等から除外されます。
(除外されるものから除外されるため、除外されなくなります。)
取得の対価の額に相当する金額
取得の対価の額に相当する金額(注2)のカッコ書きには、
(その取得をした自己の株式が次に掲げるものである場合には、それぞれ次に定める金額に相当する金額)とあります。次のものは、イとロの2つです。
整理すると
1、イとロでない場合は、自己の株式の取得の対価の額
2、イの場合は、イに定める金額
3、ロの場合は、ロに定める金額
の3通りの計算があります。
イの場合
イの規定を確認してみましょう。
イ その取得をした自己の株式を有価証券とみなした場合に当該自己の株式が第百十九条第一項第五号から第九号まで、第二十六号又は第二十七号に掲げる有価証券に該当するときにおける当該自己の株式(ロに掲げるものを除く。) これらの号に定める金額(同項第五号から第九号までに掲げる有価証券に該当する場合にあつては、これらの号に規定する費用の額を除く。)「その取得をした自己の株式を有価証券とみなした場合に」とあるのは、自己の株式は有価証券に該当しないため、有価証券として取り扱った場合に、という意味です。
自己の株式が
1、第119条第1項第5号から第9号まで、
2、第26号又は第27号に掲げる有価証券
に該当するときにおける自己の株式(ロに掲げるものを除く。)
イとロが重複する場合は、ロが優先されます。
ロに該当しないものがイの対象となります。
第119条第1項は、有価証券の取得価額です。
・第5号、お金などが交付されない合併
・第6号、お金などが交付されない分割型分割
・第7号、適格分社型分割、適格現物出資
・第8号、お金などが交付されない株式分配
・第9号、お金などが交付されない株式交換
・第26号、適格合併に該当しない合併で完全支配関係がある。
・第27号、第1号から第26号までに該当しない。
上記に該当するものについては、これらの号に定める金額が資本金等の額の減算額となります。
ただし、有価証券の取得価額に含める費用(付随費用)については、カッコ書きにより自己の株式の取得価額(資本金等の額の減算額)には含まれません。
(第26号と第27号については、カッコ書きから除外されています。)
ロの場合
ロの規定を確認してみましょう。
ロ 適格合併、適格分割、適格現物出資又は適格現物分配により移転を受けた自己の株式 第百二十三条の三第三項(注5)に規定する帳簿価額、第百二十三条の四(注6)に規定する帳簿価額、第百二十三条の五(注7)に規定する帳簿価額に相当する金額(注8)又は第百二十三条の六第一項(注9)に規定する帳簿価額1、適格合併
2、適格分割
3、適格現物出資
4、適格現物分配
により移転を受けた自己の株式については、
1、第123条の3第3項(注5)に規定する帳簿価額
2、第123条の4(注6)に規定する帳簿価額
3、第123条の5(注7)に規定する帳簿価額に相当する金額(注8)
4、第123条の6第1項(注9)に規定する帳簿価額
が、資本金等の額の減算額となります。
(注8以外のカッコ書きは、規定のタイトルです。)
自己の株式を無償(低額)で取得した場合
規定を読んでいて気になった部分がありますので、メモします。
イの場合の中で、「第27号に掲げる有価証券に該当するときにおける当該自己の株式」とありますので、第27号を確認してみましょう。
二十七 前各号に掲げる有価証券以外の有価証券 その取得の時におけるその有価証券の取得のために通常要する価額
法人税法施行令第119条第1項第27号、令和7年4月1日施行
前各号は、第1号から第26号までの規定です。これらの号に該当しない場合は、第27号の時価が有価証券の取得価額となります。
資本金等の額の減算額の規定で、「その取得をした自己の株式を有価証券とみなした場合に」とありますので、取得する自己の株式を有価証券として取り扱う必要があると読めます。
第1号から第4号までを確認します。
・第1号、購入した有価証券
・第2号、金銭の払込み等により取得をした有価証券
・第3号、株式等無償交付
・第4号、有利な金額である場合
第3号は、無償交付の場合です。第3号に該当する場合の有価証券の取得価額は、0円です。
ただし、カッコ書きにより第4号に該当する場合は、第4号が優先されます。
第4号の有利な金額である場合は、有価証券の取得価額を「時価」で認識します。
第4号のカッコ書きで、
(新たな払込み等をせずに取得をした有価証券を含むものとし、
法人の株主等が当該株主等として金銭その他の資産の払込み等又は株式等無償交付により取得をした当該法人の株式又は新株予約権
(当該法人の他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合における当該株式又は新株予約権に限る。)、
第二十号に掲げる有価証券に該当するもの
及び
適格現物出資により取得をしたもの
を除く。)とあり、「有価証券を有利な価額で取得することにより、他の株主等に損害を及ぼすおそれがないと認められる場合における株式に限る」を除く。とあります。
「損害を及ぼすおそれがないと認められる場合」を除外するため、
「損害を及ぼすおそれがあると認められる場合」が規定の対象となります。
損害を及ぼすおそれがある場合は、「時価」となります。
損害を及ぼすおそれがない場合は、他の号を検討する必要があります。
第1号から第26号までに該当するものがない場合は、
第27号の「時価」となるため、
自己の株式を無償(低額)取得した場合であっても、
何らかの評価が必要となるのでしょう。
税務上の処理を5つ考えてみます。
1、資本金等の額も利益積立金額も変動しない。
2、時価相当額の資本金等の額が減る。利益積立金額は変動しない。
3、時価相当額の資本金等の額が減る。利益積立金額は増加する。
4、資本金等の額は変動しない。時価相当額の利益積立金額が増加する。
5、その他
自己の株式の無償取得で、資本金等の額や利益積立金額が変動すると考えるのはあまりないようです。
参考情報
適格合併、適格分割型分割により資産や負債の移転を受けた場合
3 内国法人が適格合併又は適格分割型分割により被合併法人又は分割法人から資産又は負債の移転を受けた場合には、当該移転を受けた資産及び負債の法第六十二条の二第一項又は第二項に規定する帳簿価額(当該資産又は負債が当該被合併法人(公益法人等に限る。)の収益事業以外の事業に属する資産又は負債であつた場合には、当該移転を受けた資産及び負債の価額として当該内国法人の帳簿に記載された金額)による引継ぎを受けたものとする。
法人税法施行令第123条の3第3項、令和7年4月1日施行
適格分社型分割における分割承継法人の資産及び負債の取得価額
第百二十三条の四 内国法人が適格分社型分割により分割法人から資産又は負債の移転を受けた場合には、当該移転を受けた資産及び負債の取得価額は、法第六十二条の三第一項(適格分社型分割による資産等の帳簿価額による譲渡)に規定する帳簿価額に相当する金額(その取得のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)とする。
法人税法施行令第123条の4、令和7年4月1日施行
適格現物出資における被現物出資法人の資産及び負債の取得価額
第百二十三条の五 内国法人が適格現物出資により現物出資法人から資産の移転を受け、又はこれと併せて負債の移転を受けた場合には、当該移転を受けた資産及び負債の取得価額は、法第六十二条の四第一項(適格現物出資による資産等の帳簿価額による譲渡)に規定する帳簿価額に相当する金額(その取得のために要した費用がある場合にはその費用の額を加算した金額とし、当該資産又は負債が当該現物出資法人(公益法人等又は人格のない社団等に限る。)の収益事業以外の事業に属する資産又は負債であつた場合には当該移転を受けた資産及び負債の価額として当該内国法人の帳簿に記載された金額とする。)とする。
法人税法施行令第123条の5、令和7年4月1日施行
適格現物分配における被現物分配法人の資産の取得価額
第百二十三条の六 内国法人が適格現物分配により現物分配法人から資産の移転を受けた場合には、当該資産の取得価額は、法第六十二条の五第三項(現物分配による資産の譲渡)に規定する帳簿価額に相当する金額とする。
法人税法施行令第123条の6、令和7年4月1日施行
2 適格現物分配(残余財産の全部の分配に限る。)は、当該残余財産の確定の日の翌日に行われたものとして、法の規定を適用する。
おまけ
法人税法第22条第5項の「資本等取引」の定義を確認してみました。
5 第二項又は第三項に規定する資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第百十五条第一項(中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)及び残余財産の分配又は引渡しをいう。
法人税法第22条第5項、令和7年6月20日施行
資本等取引とは
・法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引など
をいいます。
自己の株式を無償で取得した場合に、
資本金等の額が変動しないと考えると、
資本金等の額は、増加も減少もしないため、
資本等取引に該当しなくなると読めます。
資本等取引に該当しないと読むと、
損益取引に該当する余地があります。
法人税法第22条第2項には、「取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額」とあるため、自己の株式の無償取得がこの取扱いに該当する余地はありそうです。
取引の例示
1、資産の販売
2、有償による資産の譲渡
3、無償による資産の譲渡
4、有償による役務の提供(資産の貸付け)
5、無償による役務の提供(資産の貸付け)
6、無償による資産の譲受け
仮に、借方の自己の株式の無償取得を有価証券とみなして評価する場合、資本金等の額が減少すると考えられるため、この部分については、資本等取引と見ることができます。
借方、資本金等の額(資本等取引) /
自己の株式の無償取得が「取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額」に該当するのであれば、
貸方、収益の額(資本等取引でない) → 益金の額 → 利益積立金額
と考えることができます。
評価額や無償取得する理由や経緯によって、取扱いが分かれるところだと考えています。
