今回は、適格現物分配があった場合の利益積立金額を確認してみましょう。
適格現物分配を受けた場合
法人が株主等にお金以外の資産を交付することを「現物分配」といいます。
交付事由は、次の3つです。
1、剰余金の配当など
2、解散による残余財産の分配
3、配当として取り扱われる事由(みなし配当事由)
現物分配は、
1、適格要件を満たす現物分配(適格現物分配)
2、適格要件を満たさない現物分配
の2つあります。
1の適格現物分配があった場合は、利益積立金額が変動します。
利益積立金額は、
・第1号-第7号までの加算項目
・第8号-第14号までの減算項目
に分かれます。
まずは、第4号の加算項目を見てみましょう。
四 当該法人を被現物分配法人とする適格現物分配により当該適格現物分配に係る現物分配法人から交付を受けた資産の当該適格現物分配の直前の帳簿価額に相当する金額(当該適格現物分配が法第二十四条第一項第四号から第七号まで(配当等の額とみなす金額)に掲げる事由に係るものである場合には、当該適格現物分配に係る同項に規定する株式又は出資に対応する部分の金額を除く。)
法人税法施行令第9条第4号、令和7年4月1日施行
カッコ書きを外します。
四 当該法人を被現物分配法人とする適格現物分配により当該適格現物分配に係る現物分配法人から交付を受けた資産の当該適格現物分配の直前の帳簿価額に相当する金額(注1)「当該法人」は、当社(所得の金額を留保している法人)のことです。
「被現物分配法人とする」とあるため、
第4号は、現物分配を受ける法人(資産を受け取る法人)の規定です。
「適格現物分配により」とあるため、
適格要件を満たさない現物分配は、関係ありません。
現物分配法人(資産を渡す法人)から交付を受けた資産の適格現物分配の直前の帳簿価額が、利益積立金額の加算項目となります。
ただし、適格要件を満たす現物分配がみなし配当事由の
・第4号、資本の払戻し、解散による残余財産の分配
・第5号、自己の株式の取得など
・第6号、出資の払戻しなど
・第7号、組織変更
に該当する場合は、株式や出資(資本)に対応する部分の金額を除外します。
仕訳イメージ
金銭以外の資産 100(簿価) / 資本金等の額 60(対応金額)
/ 利益積立金額 40(差額を加算)
剰余金の配当など
第8号の剰余金の配当などは、利益積立金額の減少項目です。
八 剰余金の配当(株式又は出資に係るものに限るものとし、資本剰余金の額の減少に伴うもの並びに分割型分割によるもの及び株式分配を除く。)若しくは利益の配当(分割型分割によるもの及び株式分配を除く。)若しくは剰余金の分配(出資に係るものに限る。)、投資信託及び投資法人に関する法律第百三十七条(金銭の分配)の金銭の分配(法第二十三条第一項第二号に規定する出資等減少分配を除く。)又は資産の流動化に関する法律(平成十年法律第百五号)第百十五条第一項(中間配当)に規定する金銭の分配の額として株主等に交付する金銭の額及び金銭以外の資産の価額(適格現物分配に係る資産にあつては、その交付の直前の帳簿価額)の合計額(法第二十四条第一項の規定により法第二十三条第一項第一号又は第二号に掲げる金額とみなされる金額を除く。)
法人税法施行令第9条第8号、令和7年4月1日施行
カッコ書きを外します。
1、剰余金の配当(注1)、利益の配当(注2)、剰余金の分配(注3)
2、投資信託及び投資法人に関する法律第137条(注4)の金銭の分配(注5)
3、資産の流動化に関する法律(注6)第115条第1項(注7)に規定する金銭の分配の額として株主等に交付する
・金銭の額
・金銭以外の資産の価額(注8)
の合計額(注9)が利益積立金額の減少額となります。
原則として、金銭の額(お金)と金銭以外の資産の価額の合計額ですが、適格現物分配については、交付直前の帳簿価額に変わります。
仕訳イメージ
利益積立金額 200(簿価) / 金銭以外の資産 200(簿価)
資本の払戻し等
第12号の資本の払戻し等は、利益積立金額の減少項目です。
十二 前条第一項第十八号に規定する資本の払戻し等により交付した金銭の額及び金銭以外の資産の価額(適格現物分配に係る資産にあつては、その交付の直前の帳簿価額)の合計額が当該資本の払戻し等に係る同号に規定する減資資本金額を超える場合におけるその超える部分の金額
法人税法施行令第9条第12号、令和7年4月1日施行
原則として、金銭の額(お金)と金銭以外の資産の価額の合計額ですが、適格現物分配については、交付直前の帳簿価額に変わります。
減資資本金額を超える部分が、利益積立金額の減少額です。
仕訳イメージ
減資資本金額 60円(資本金等の額) / 金銭以外の資産 100円(簿価)
超える部分の金額 40円(利益積立金額) /
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参考情報、気になった点
第4号の加算項目の合計額(注9)のカッコ書きについて
合計額(法第二十四条第一項の規定により法第二十三条第一項第一号又は第二号に掲げる金額とみなされる金額を除く。)みなし配当事由により受取配当金として取り扱われる金額は、合計額から除外されます。
配当を支払っているため、利益積立金額は減ります。合計額から除外するのはなぜでしょう。
法人の仕訳イメージ
利益剰余金 100 / 金銭以外の資産 100(簿価)
税務上の仕訳イメージ、みなし配当がある場合
資本金等の額の減少 60 / 金銭以外の資産 100(簿価)
利益積立金額の減少 40
上記の場合、利益剰余金(利益積立金額)を100を減らしています。みなし配当で計算された配当40をもう一度減らさないようにするため、合計額から除外しているのでしょう。
もう1つ疑問が。
適格現物分配の帳簿価額と合計額のカッコ書きが両方あてはまるケースがあるのかと思い、みなし配当の規定を確認してみました。
その金銭の額及び金銭以外の資産の価額(適格現物分配に係る資産にあつては、当該法人のその交付の直前の当該資産の帳簿価額に相当する金額)の合計額が当該法人の資本金等の額のうちその交付の基因となつた当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときとあります。
みなし配当事由と適格現物分配の両方があてはまるケースはあります。
第8号の剰余金の配当(株式又は出資に係るものに限るものとし、資本剰余金の額の減少に伴うもの並びに分割型分割によるもの及び株式分配を除く。)については、
1、資本剰余金の額の減少
2、分割型分割
3、株式分配
の3つは除外されています。
・法人税法第24条の適格現物分配とみなし配当
・利益剰余金の増加額(第8号)の剰余金の配当と適格現物分配
上記の規定がそれぞれ重ねて適用されることはあっても
1、剰余金の配当(利益剰余金)
2、適格現物分配(直前簿価で計算)
3、みなし配当がある場合は配当部分を除外する
の3つを同時に満たすケースはなさそうです。
1、適格現物出資でない場合、利益剰余金の配当
利益剰余金 120(時価) / 土地 100(簿価)
/ 売却益 20
2、適格現物出資の場合、利益剰余金の配当
利益剰余金 100(簿価) / 土地 100(簿価)
通常の配当で、資本金等の額が減少しないことを考えると
みなし配当事由に該当することはないのかなあと。
