インボイス発行事業者が亡くなった場合の手続きと棚卸資産の調整


今回は、インボイス発行事業者が亡くなった場合の手続きの政令を確認します。政令は、「みなし登録期間の延長」と「棚卸資産の調整に関する規定」です。

適格請求書発行事業者の事業を承継した相続人の手続等

インボイス登録事業者である被相続人の事業を相続した相続人は、
その旨を記載した届出書を提出する必要があります。

この場合に、みなし登録期間の末日までに、相続人が提出したインボイス登録申請書に対し、税務署長の通知がないときは、相続人に通知が到達する日までみなし登録期間が延長されます。

時系列で整理すると、下記5までみなし登録期間となります。

  • 被相続人の死亡の日
  • 被相続人の死亡の日の翌日(みなし登録期間の開始日)
  • 相続人が登録を受けた日の前日OR準確定申告期限の早い日
    (みなし登録期間の末日)
  • みなし登録期間の末日の翌日
  • 税務署長の通知が到達した日(この日まで延長される)

疑問点
通知日と登録日がずれる場合は、どうなるのでしょう。

登録日が先、通知日が後であれば、通知日まで自動延長されるので問題なさそうです。逆に、通知日が先、登録日が後であれば空白期間が生じます。そのために登録希望日の欄があるのでしょうか。

(適格請求書発行事業者の事業を承継した相続人の手続等)
第七十条の六 法第五十七条の三第三項の規定の適用を受けようとする同項に規定する相続人は、同条第一項の規定による届出書に、相続により適格請求書発行事業者の事業を承継した旨を記載しなければならない。

2 法第五十七条の三第三項の規定の適用を受けている同項に規定する相続人が、同項に規定するみなし登録期間中に法第五十七条の二第二項の申請書をその納税地を所轄する税務署長に提出した場合において、当該みなし登録期間の末日までに当該申請書に係る登録又は同条第五項の処分に係る通知がないときは、同日の翌日から当該通知が当該相続人に到達するまでの期間を法第五十七条の三第三項に規定するみなし登録期間とみなして、同項の規定を適用する。

消費税法
登録取消しの届出があつた場合におけるみなし登録期間の特例

読替規定ですので置き換えます。
登録取消しの届出があつた場合は、判定日が1つ増えます。

読替後

 相続により適格請求書発行事業者の事業を承継した相続人(適格請求書発行事業者を除く。)の当該相続のあつた日の翌日から、当該相続人が前条第一項の登録を受けた日の前日若しくは当該相続に係る適格請求書発行事業者が死亡した日の翌日から四月を経過する日又は同条第十項(第一号に係る部分に限る。)の規定により当該適格請求書発行事業者に係る同条第一項の登録が失効する日の前日のいずれか早い日までの期間(次項において「みなし登録期間」という。)については、当該相続人を同条第一項の登録を受けた事業者とみなして、この法律(同条第十項(同号に係る部分に限る。)を除く。)の規定を適用する。この場合において、当該みなし登録期間中は、当該適格請求書発行事業者に係る同条第四項の登録番号を当該相続人の登録番号とみなす。

消費税法

相続翌日から、次の1、2、3のうちいずれか早い日までの期間が
みなし登録期間となります。

  • 登録を受けた日の前日
    若しくは
  • 被相続人が死亡した日の翌日から4月を経過する日(準確定申告の期限)
    又は
  • 登録取消届出書により登録が失効する日の前日

1と2は、登録を取り消さない場合と同じです。
3が登録取消しの届出があった場合の特例です。

状況がわかりづらいのですが、相続人が登録を取り消す場合ではなくて、登録を取り消した被相続人の事業を相続した、相続人のみなし登録期間の取扱い(特例)です。

例えば、インボイス登録事業者である被相続人が登録取消しの手続きを行ったが、その登録の効力が失効する前に死亡し、相続人が事業を承継した場合です。

具体例

  • 被相続人が死亡前の11月25日にインボイス登録事業者の取消届出書を提出した。翌年1月1日からインボイスの登録の効力が消える予定だった。
  • 被相続人が12月20日に死亡し、同日相続人が事業を承継した。

この場合、相続人が何も手続きしないでいると被相続人の死亡後4か月間はみなし登録期間となるため、翌年1月1日に登録の効力が失効しません。

そのため、みなし登録期間の特例により、本来登録が失効する日(翌年1月1日)の前日(12月31日)までの期間がみなし登録期間(12月21日から12月31日まで)となります。

(登録取消しの届出があつた場合におけるみなし登録期間の特例)
第七十条の七 相続により法第五十七条の三第一項に規定する適格請求書発行事業者(法第五十七条の二第十項第一号の規定による届出書<取消届出書>を提出した者に限る。)の事業を承継した相続人に係る法第五十七条の三第三項の規定の適用については、同項中「又は」とあるのは「若しくは」と、「経過する日」とあるのは「経過する日又は同条第十項(第一号に係る部分に限る。)の規定により当該適格請求書発行事業者に係る同条第一項の登録が失効する日の前日」と、「第一号」とあるのは「同号」とする。

消費税法施行令
適格請求書発行事業者の事業を承継した相続人の棚卸資産に係る消費税額の調整(免税から課税)

被相続人がインボイス登録事業者、相続人が免税事業者の場合の、
棚卸資産の調整の読替規定です。

読替後

(納税義務の免除を受けないこととなつた場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整)

第三十六条 第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者が、同項の規定の適用を受けないこととなつた場合において、その受けないこととなつた課税期間の初日(第十条第一項、第十一条第一項、第十二条第五項又は第五十七条の三第三項の規定により第九条第一項本文の規定の適用を受けないこととなつた場合には、その受けないこととなつた日の前日において消費税を納める義務が免除されていた期間中に国内において譲り受けた課税仕入れに係る棚卸資産又は当該期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物で棚卸資産に該当するもの(これらの棚卸資産を原材料として製作され、又は建設された棚卸資産を含む。以下この条において同じ。)を有しているときは、当該課税仕入れに係る棚卸資産又は当該課税貨物に係る消費税額(当該棚卸資産又は当該課税貨物の取得に要した費用の額として政令で定める金額に百十分の七・八(当該課税仕入れに係る棚卸資産が他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合又は当該課税貨物が軽減対象課税貨物である場合には、百八分の六・二四)を乗じて算出した金額をいう。第三項及び第五項において同じ。)をその受けないこととなつた課税期間の仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額とみなす。

消費税法

36条1項は、免税事業者から課税事業者に変わった場合の棚卸資産の調整規定です。読替えにより、インボイス発行事業者である被相続人の事業を免税事業者が相続した場合が追加されます。

読替規定

(適格請求書発行事業者の事業を承継した相続人の棚卸資産に係る消費税額の調整)
第七十条の八 法第五十七条の三第三項の規定の適用を受ける同項に規定する相続人(同項に規定するみなし登録期間の初日の前日において法第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者に限る。)における法第三十六条第一項の規定の適用については、同項中「又は第十二条第五項」とあるのは、「、第十二条第五項又は第五十七条の三第三項」とする。

消費税法施行令
適格請求書発行事業者の事業を承継した相続人の棚卸資産に係る消費税額の調整(課税から免税)

被相続人がインボイス登録事業者、相続人が免税事業者の場合です。
相続年の翌年が免税事業者となる場合の読替規定です。

読替後

 事業者が、第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除されることとなつた場合において、第五十七条の三第三項に規定するみなし登録期間の末日において当該みなし登録期間中に国内において譲り受けた課税仕入れに係る棚卸資産又は当該みなし登録期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物で棚卸資産に該当するものを有しているときは、当該課税仕入れに係る棚卸資産又は当該課税貨物に係る消費税額は、第三十条第一項(同条第二項の規定の適用がある場合には、同項の規定を含む。)の規定の適用については、当該みなし登録期間の末日の属する課税期間の仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額に含まれないものとする。

消費税法36条

調整対象となる日は、みなし登録期間の末日です。
調整対象となるものは、みなし登録期間中の棚卸資産の取得です。

読替規定

2 法第五十七条の三第三項の規定の適用を受ける同項に規定する相続人(同項に規定するみなし登録期間の末日の翌日において法第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者に限る。)における法第三十六条第五項の規定の適用については、同項中「同項の規定の適用を受けることとなつた課税期間の初日の前日」とあるのは「第五十七条の三第三項に規定するみなし登録期間の末日」と、「前日の属する課税期間」とあるのは「みなし登録期間」と、「課税期間に」とあるのは「みなし登録期間に」と、「当該課税期間の」とあるのは「当該みなし登録期間の末日の属する課税期間の」とする。

消費税法施行令
棚卸資産の調整の具体例

具体例

  • 被相続人が死亡前の11月25日にインボイス登録事業者の取消届出書を提出した。翌年1月1日からインボイスの登録の効力が消える予定だった。
  • 被相続人が12月20日に死亡し、同日相続人が事業を承継した。
  • みなし登録期間の特例により、本来登録が失効する日(翌年1月1日)の前日(12月31日)までの期間がみなし登録期間(12月21日から12月31日まで)となる。

整理すると次のとおりです。

内容1月1日
~12月20日
12月21日
~12月31日
翌年1月1日
被相続人
(インボイス発行事業者)
課税事業者
相続人免税事業者課税事業者免税事業者
まとめ

12月21日から12月31日までの期間について、棚卸資産の調整を2つ(免税から課税、課税から免税)計算する必要があります。

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