相続税と贈与税の修正申告の特則


今回は、相続税と贈与税の修正申告の特則を確認してみましょう。

相続税の修正申告の特則

今回確認する規定は、こちら↓

(修正申告の特則)
第三十一条 第二十七条若しくは第二十九条の規定による申告書又はこれらの申告書に係る期限後申告書を提出した者(相続税について決定を受けた者を含む。)は、次条第一項第一号から第六号までに規定する事由が生じたため既に確定した相続税額に不足を生じた場合には、修正申告書を提出することができる。

相続税法第31条第1項、令和7年6月1日施行

最初に対象者が規定されています。

・第27条により相続税の申告書を提出した人(通常の場合)
・第29条により相続税の申告書を提出した人(特別縁故者や特別寄与者の場合)
・相続税の申告書を期限後に提出した人
(相続税の申告をしないで税額が決められた人を含みます。)

次に、修正申告の特則の事由が規定されています。
支払う税金が増える申告を「修正申告」といいます。

次条第一項第一号から第六号までに規定する事由が生じたため

次条は、第32条(更正の請求の特則)のことです。特則の事由は全部で10個あります。このうち、修正申告の特則の事由は、第1号から第6号までの6個です。

第1号を確認してみましょう。

一 第五十五条の規定により分割されていない財産について民法(第九百四条の二(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従つて課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従つて計算された課税価格と異なることとなつたこと。

第55条には、「遺産分割が済んでいない財産については、民法で定められた相続分で遺産を分割したものとして相続税を計算してくださいね」と規定されています。

上記の後、遺産の分割が済んだ場合に
・民法で定められた相続分で計算した課税される財産の金額(仮定の計算)
・実際の遺産分割で計算した課税される財産の金額(実際の金額で計算)
の2つが異なるときは、更正の請求(相続税の再計算)が可能です。

修正申告の特則は、更正の請求の特則に関する事由の第1号から第6号までと規定されていますので、上記の事由が発生した場合は、修正申告の特則の要件をクリアします。

規定の続きを確認してみましょう。

既に確定した相続税額に不足を生じた場合には、修正申告書を提出することができる。

上記の事由により相続税が増える場合は、相続税の修正申告が可能です。

特別縁故者や特別寄与者の取扱い

上記で確認した規定に該当する場合は修正申告を選択できますが、次の規定に該当する場合は修正申告が必要となります。

2 前項に規定する者は、第四条第一項又は第二項に規定する事由が生じたため既に確定した相続税額に不足を生じた場合には、当該事由が生じたことを知つた日の翌日から十月以内(その者が国税通則法第百十七条第二項(納税管理人)の規定による納税管理人の届出をしないで当該期間内にこの法律の施行地に住所及び居所を有しないこととなるときは、当該住所及び居所を有しないこととなる日まで)に修正申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。

相続税法第31条第2項、令和7年6月1日施行

最初に対象者が規定されています。「前項(第1項)に規定する者」とあります。

・第27条により相続税の申告書を提出した人(通常の場合)
・第29条により相続税の申告書を提出した人(特別縁故者や特別寄与者の場合)
・相続税の申告書を期限後に提出した人
(相続税の申告をしないで税額が決められた人を含みます。)

次に要件が規定されています。

第4条第1項又は第2項に規定する事由が生じたため既に確定した相続税額に不足を生じた場合

第4条第1項は特別縁故者、第2項は特別寄与者に関する規定です。亡くなった方から財産を遺贈により受け取っていないものについても、相続税法ではなくなった方から財産を遺贈により受け取ったものとして取り扱われます。

この場合に相続税が増えるときは、

事由が生じたことを知つた日の翌日から10月以内に修正申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。

とありますので、修正申告書を相続税の基準となる場所(納税地)の税務署に提出する必要があります。

修正申告の必要がなくなる場合

特別縁故者や特別寄与者の取扱い(修正申告が必要となる場合)で確認した内容については、修正申告の期限前に税務署長の更正があった場合、修正申告の義務がなくなります。

税務署長の更正は、第35条第2項第5号を確認してみましょう。

2 税務署長は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、申告書の提出期限前においても、その課税価格又は相続税額若しくは贈与税額の更正又は決定をすることができる。
五 第二十九条第一項若しくは同条第二項において準用する第二十七条第二項又は第三十一条第二項に規定する事由に該当する場合において、第四条第一項又は第二項に規定する事由が生じた日の翌日から十月を経過したとき。

相続税法第35条第2項第5号、令和7年6月1日施行

申告書の提出期限の前であっても、相続税などの更正(相続税の再計算)が可能と規定されています。

第5号の規定を整理してみましょう。

要件1
・第29条第1項、特別縁故者や特別寄与者の相続税申告の義務
・第29条第2項の準用する第27条第2項、亡くなった場合の申告義務の引継ぎ
・第31条第2項、特別縁故者や特別寄与者の修正申告の義務
に規定する事由に該当する場合において、

要件2
・第4条第1項、特別縁故者は遺贈により財産を受け取ったものとする。
・第4条第2項、特別寄与者は遺贈により財産を受け取ったものとする。
に規定する事由が生じた日の翌日から10月を経過したとき。

要件1と要件2をクリアして、修正申告の期限前に税務署長の更正があった場合は、修正申告の義務がなくなります。

参考規定
修正申告の期限前に更正があった場合は、修正申告の義務がなくなる。

3 前項の規定は、同項に規定する修正申告書の提出期限前に第三十五条第二項第五号の規定による更正があつた場合には、適用しない。

相続税法第31条第3項、令和7年6月1日施行
贈与税の修正申告の特則

贈与税に関するルールを確認してみましょう。

4 第二十八条の規定による申告書又は当該申告書に係る期限後申告書を提出した者(贈与税について決定を受けた者を含む。)は、次条第一項第一号から第六号までに規定する事由が生じたことにより相続又は遺贈による財産の取得をしないこととなつたため既に確定した贈与税額に不足を生じた場合には、修正申告書を提出することができる。

相続税法第31条第4項、令和7年6月1日施行

最初に対象者が規定されています。
・第28条により贈与税の申告書を提出した人
・贈与税の申告書を期限後に提出した人
(贈与税の申告をしないで税額が決められた人を含みます。)

続きに要件が規定されています。

次条第一項第一号から第六号までに規定する事由が生じたことにより

「次条(第32条)第1項第1号から第6号まで」とありますので、相続税の修正申告の特則と同じ事由です。

相続又は遺贈による財産の取得をしないこととなつたため既に確定した贈与税額に不足を生じた場合には、修正申告書を提出することができる。

上記の第1号から第6号までの事由により、相続などで財産を取得しなかった場合は、一度計算した贈与税が増えることがあります。この場合は、贈与税の修正申告が可能です。

特則関係のまとめ
第30条、期限後申告の特則
・第1項、相続税、任意
・第2項、贈与税、任意

第31条、修正申告の特則
・第1項、相続税、任意
・第2項、相続税、申告義務あり
・第3項、相続税、期限前の更正により第2項不適用
・第4項、贈与税、任意

第32条、更正の請求の特則
・第1項、相続税・贈与税、任意
・第2項、更正の請求の期間、5年→6年


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